Blogブログ

  • トップトップ
  • ブログ
  • 音の“個性”はどこで生まれるのか──ヴァイオリン設計の真髄

2025年11月05日

音の“個性”はどこで生まれるのか──ヴァイオリン設計の真髄

こんにちは。
東京都杉並区とイタリア・クレモナに工房を構える
「Sakamoto Violins(Bottega di Liuteria Hiroaki Sakamoto)」です。

 

私たちは、クレモナ伝統の製作技法と、
現代の科学的研究によって明らかになった音響理論を融合させ、奏者一人ひとりの個性を引き出すヴァイオリンを製作しています。

 

同じ形、同じ寸法のヴァイオリンでも、
弾いた瞬間にまったく違う音を奏でることがあります。
その“違い”はどこから生まれるのでしょうか。

 

今回は、Sakamoto Violinsの製作哲学を通して、
音を決定づける設計の秘密をご紹介します。

 

木が持つ声を聴く──素材選びの段階から音は始まる

ヴァイオリンの音づくりは、木材選びから始まります。
使用する主な木材は、表板にスプルース(松科)
裏板・側板・ネックに
メイプル(楓)
これらの木は、音の伝達性・強度・しなやかさに優れています。

 

Sakamoto Violinsでは、年輪の幅・木目の流れ・しなり具合を見極め、組み合わせる材の相性まで考慮して選定します。
たとえば、裏板が硬い材なら、表板にはやや柔らかいスプルースを合わせる。
そうすることで、響きに深みと伸びが生まれるのです。

 

さらに、選ばれた木材は
10年以上の自然乾燥(シーズニング)を経て使用されます。

 

人工的に乾燥させた木では得られない、
自然乾燥特有の「音の抜け」と「安定感」が、長期熟成によって育まれます。

 

木が“声を持つ”までのこの長い時間も、
音づくりの一部として大切にされています。

 

音を形づくる設計──
モデル・厚み・アーチ・魂柱の関係

木材が整ったら、次に形を“削り出す”工程です。
ヴァイオリンの表板と裏板は、中央がわずかに隆起した
「アーチ型」に作られます。

 

このアーチの高さやカーブの強さが、
音の重心と響き方を左右します。

 

さらに、板の厚みも重要な要素です。
厚すぎると音がこもり、薄すぎると響きが軽くなる。
Sakamoto Violinsでは、0.1mm単位の厚み調整を行い、
低音・中音・高音のバランスを整えています。

 

そして、ヴァイオリンの内部に立てられる
小さな柱──
魂柱(サウンドポスト)
これは文字通り、音の“魂”を支える部品です。
表板と裏板をつなぎ、弦の振動を楽器全体に伝える役割を持っています。

 

魂柱の位置が0.1mmでもずれると、
音の響きや方向性が変わります。

そのため製作段階で何度も微調整を行い、
奏者の求める響きに合わせて最適なバランスを探ります。

 

この緻密な設計が、ヴァイオリンに“声”を与えるのです。

 

ニスが与える
最終的な“音の色”

ヴァイオリンの音と見た目を
決定づけるのが、
ニス塗装です。
Sakamoto Violinsでは、
下地塗りから仕上げまで約30日をかけて塗装を行います。

 

まず、木に直接色ニスが染み込まないよう、下地となるグラウンドニスを塗布。
その後、色ニスを何層にも重ね、乾燥・研磨を繰り返すことで、透明感のある深い艶を生み出します。

 

ニスの厚さや種類は、音にも大きく影響します。
厚すぎると音がこもり、薄すぎると音が軽くなる。
そのため、光沢を出しながらも音の響きを損なわないよう、
独自に調合したニスを使い分けています。

 

Sakamoto Violinsでは、この“音を彩る工程”も、
設計の一部として捉えています。

 

駒と弦の調整──
微差が響きを決める

弦の振動を直接受け取るのが「駒(ブリッジ)」です。
この駒の足が、表板にどのように接するかで
音の反応が変わります。

接地面がわずかに浮くだけでも、
音の立ち上がりが鈍くなったり、音量が変わることもあります。

 

Sakamoto Violinsでは、表板のアーチに合わせて駒を削り出し、左右のバランスを整えながら精密にフィッティングします。
また、弦の張力や素材(ガット弦・スチール弦・ナイロン弦)に応じて、駒の形状や高さも最適化。

 

どのような弾き方をしても、
「響きが均一で、無理なく鳴る」状態を
作ることを目指しています。

 

自分の音を見つけるために

ヴァイオリンの音は、“作られるもの”であると同時に、
“育てていくもの”でもあります。

 

試奏のとき、最初の印象だけで判断するのではなく、
時間とともにどう響きが変わるかを感じてみてください。

 

たとえば、
・弾き始めの反応の速さ
・音が空間にどう広がるか
・ピアニッシモ(弱音)の表情が豊かかどうか
これらは、その楽器の設計思想を反映しています。

 

Sakamoto Violinsでは、
試奏時に演奏者の好みを細かくヒアリングし、
その音に合わせた調整も行っています。
“作り手と奏者の対話”こそ、音の個性を最大限に引き出すプロセスなのです。

 

設計から生まれる、
音との対話

ヴァイオリンの音は、
偶然ではなく設計によって生まれます。

木材の組み合わせ、厚み出し、魂柱、駒、ニス──
そのすべてが、音の方向を決める設計要素です。

 

Sakamoto Violinsは、
クレモナ伝統の技術を礎にしながら、
現代の奏者が求める音を科学的に分析し、
一人ひとりの“理想の響き”を形にしています。

 

それは単なる製作ではなく、
奏者と職人が一緒に“音をデザインする”作業です。

 

あなたの音を設計する一本を、
Sakamoto Violinsで見つけてみませんか。

 

所在地:東京都杉並区井草1-26-14(下井草駅より徒歩6分)
イタリア工房:Via Dati Ugolani 11, 26100 Cremona, Italia
公式サイトhttps://sakamoto-violins.com

 

#ヴァイオリン #SakamotoViolins #クレモナ #弦楽器工房 #ヴァイオリン設計 #魂柱 #楽器製作